ランチア・デルタ HF インテグラーレは、イタリアのランチア社が世界ラリー選手権(WRC)参戦を目的に開発した高性能4WDハッチバックモデルです。ベースとなったランチア・デルタ自体は1979年にデビューし、ジョルジェット・ジウジアーロの手によるスタイリッシュなデザインと実用性が評価されて欧州で成功を収めました。その後、グループA規定のラリー車としてさらに戦闘力を高めるために4WDシステムを搭載した「HF 4WD」が1986年に登場し、これがのちの「HF インテグラーレ」シリーズへの布石となります。
WRCでの無敵時代
1987年に投入された「デルタ HF インテグラーレ」(通称8バルブ)は、WRCで圧倒的な強さを発揮しました。2.0リッター直列4気筒DOHCターボエンジンを搭載し、当時としては先進的なフルタイム4WDシステムを採用。ボディもワイドフェンダーや大型エアインテークが備わり、ホモロゲーション(レース参戦のための市販モデル)として生産されました。1989年にはヘッド周りを改良した「16バルブ」が登場し、さらなるパワーアップを果たします。
ランチアはこのHF インテグラーレを武器に、1987年から1992年までWRCのマニファクチャラーズ(メーカー)タイトルを6年連続で獲得するという前人未到の記録を打ち立てました。とりわけ、ディディエ・オリオールやユハ・カンクネン、ミッキー・ビアシオンなど、当時の名だたるラリードライバーたちがデルタHF インテグラーレを駆り、数々の伝説的な勝利を収めたことでも知られています。
エボリューションモデルとその後
WRCでの勝利をさらに盤石にするために、1991年にはボディ剛性の向上や足回りの改良、外装のエアロダイナミクス強化などを施した「デルタ HF インテグラーレ・エボリuzione(Evo)」が登場しました。これにより、外観もより迫力あるワイドフェンダーや大型のエアインテークを特徴とし、走行性能を一段と向上させています。その後、細部をリファインした「エボリuzione II(Evo2)」も登場し、シリーズとしての完成度を高めました。
市販バージョンはWRCでの活躍と相まって世界中に根強いファンを獲得し、現在でもコレクターズアイテムとして高い人気を誇ります。ランチア・デルタ HF インテグラーレは、1980年代後半から90年代初頭にかけてラリーレジェンドの中心的存在となっただけでなく、ホットハッチの歴史においても極めて重要なモデルとして位置付けられています。